日本における高度化した 市場外電子市場の始動 – 世界的に不安定なマーケット環境の中で 本格化した日本の高度な代替執行市場の 今後の展望

By Yoichi Ishikawa
世界の取引所が昨今の金融危機において散々なダメージを受けている中で、東京証券取引所も株価や出来高において低調になっています。一方、ここ数年欧米で見られるような代替市場の拡大傾向が、アジアへ広がり、日本でも急進しています。カブドットコム証券の石川陽一氏は、この騒然とした時期に新しい代替執行市場の存在がより認知され定着することが重要であると述べています。

2009年年初から2月に入る中で、日本の株式市場は、東京証券取引所の1日当りの売買代金が2兆円割れするという売買の低迷が続いており、流動性リスクが懸念される。また、東京証券取引所の売買代金シェアは、日本の全市場の約90%超と一極集中の状況が長年続いており、多数の参加者が一カ所に過度に集中し希望する価格で取引が迅速に行われづらい売買リスクも考えられる。このような情勢の中、2008年より市場外取引に新たに複数の高度な私設取引システム(PTS)が誕生してきており、1つの銘柄の複数の値段の中で、より有利な値段を選び取引を行う高度な電子化された「最良執行(Best Execution)」が定着し始めた。

活性化し始めた市場外電子市場
日本の私設取引システム(PTS)は、1998年に法改正され市場外取引の中で電子的に売買を成立することができるようになった。2001年から2社にて運営が開始されたが、取引所と同様の価格形成を行うことができないことや、参加する投資家が限られたことなどにより十分に普及しなかった。これらの要因により、2001年~2006年までは市場外におけるPTSのシェアは2%に満たなかった。2005年の法改正により、取引所と同じ価格形成ができるオークション方式がPTSでも利用できるようになり、2006年9月、同方式のPTSが、カブドットコム証券にて夜間に始まったことをきっかけに2007年の同シェアは約4%まで伸びた。しかし同取引は、夜間という時間帯や個人投資家であること等により伸び悩んだ。そのような経緯を経て2008年、PTS業界において次のような環境の変化があり、2008年の同シェアは約5.5%、2008年11月の単月では、9%超と過去最高を占めるなど急速に拡大した。

  • 昼間の時間帯に取引所と同様のオークション等の方式にてPTS2社(カブドットコム証券と他1社)で売買が始まり、投資家は、市場外にて取引所同様の取引が本格的に行えるようになった。
  • 同2社では、トムソン・ロイター社のようなグローバル情報ベンダーに複数気配(Depth)を含んだPTSのリアルタイム時価情報を配信し始めた。
  • これらのPTSで、取引所よりも細かい呼び値での取引が可能となった。
  • 外資系証券を中心とした高度なアルゴリズム取引により、主市場と比較しながらPTS市場にも流動性を供給する新たな取引手法が定着し始めた。
  • 新たに2社にPTS業務が認可され、日本のPTSは計6社となり機関投資家から個人投資家までPTSへの認知が高まった (次ページの図Aを参照) 。但し、新規2社は個人投資家の取引が中心。

複数の価格を比較しながらの売買
右図は、カブドットコム証券が個人投資家向けに提供する複板(”Fukuita PTS(Multi board PTS)”)だ。このツールは、取引所とkabu.comPTSのそれぞれの気配情報を一枚の板画面で参照し、即座に売買できる。同様に複数の取引所やPTSの株価を同時に比較するマルチブック情報ツールは、トムソン・ロイター社などにより提供され始めており、今後投資家が複数の価格や板の状況を一覧で比較しながら売買を行うことが普及し始めてきている。取引所では、多数の参加者が同じ価格を指定するため、時間優先ではあるものの長い待ち行列となることがよくある。PTSでは、取引所とは異なる価格での取引や、取引所と同じ値段でも、より小規模のため待ち行列が短いことなどにより、アービトラージ取引が可能となった。取引所での取引と比べると待ち行列のキューをジャンプする形だ。また、PTSによっては、取引所と比べて1/10となるきめ細かな価格指定(呼び値の刻み)ができるため、アルゴリズム取引にも対応しスライシングした取引ができる。機関投資家は、これらのキュー・ジャンプや細かな呼び値の刻みにより、コスト・セーブができるようになった。これらの取引環境の高度化により、カブドットコム証券の2008年度の第3四半期(2008年10月-12月)では、外資系証券からの高度なアルゴリズム取引等による電子取引が定着し、1日平均の売買代金は、約10億円と前四半期比で約16%増加、2008年10月7日には47億円に達し過去最高を更新した。また、2008年10月後半以降、金融不安の影響でマーケット全体が低調となり注文件数は減少する一方、約定件数は続伸し、約定率は0.6%から1.0%へ上昇した(次ページの図Bを参照)。

市場外電子市場の高度化
2008年に取引所と同等のPTS市場が始動したことにより、外資系証券等によるアルゴリズム取引等の電子取引も益々高度化している。取引所と同方式をとる新しいPTSでは、基本的に取引所と同じ売買方式を取りながらも、取引所より細かな価格指定ができる。そのため、セル・サイドの売買システムでは、最良執行方針のもと、より良い価格がある場(取引所やPTS)を自動的に発見し、注文を回送させる高度な機能が要求され、先行する外資証券では2009年より提供が始まっている。これらの高度な売買システムは、SOR(スマート・オーダー・ルーティング)機能と呼ばれる。SORでは、価格やコストを加味しながらも、有利な場に注文を電子的に自動的に回送することができる。一昨年からのセル・サイドのダークプールの活用に加え、取引所、ダークプール、さらにPTSといった多数の場から最も良い値段を選ぶSORは、機関投資家の売買運用を広範囲に支援するものである。2010年1月には東京証券取引所の新システムが高度かつ高速な取引所として稼働する予定もあり、これらの電子市場の拡大に対し、迅速に注文を執行できる能力がセル・サイド側のSORシステムに要求される。また、これらの最良執行注文の高度化・小口化を背景に、サイズの大きい注文に対しては、PTSでVWAP(売買高加重平均価格)を用い効率的に売買を成立させる取引も、2009年より一般化されるであろう。

まとめ
2008年からの日本における新たな複数の私設取引システム(PTS)の始動の流れは、2009年より有利な値段で取引を行う「最良執行(Best Execution)」が機関投資家およびセル・サイドのSORシステムにより高度に電子化される流れの中で、電子的かつ機能的に取引所を補完する新たな執行市場として定着し、日本の市場全体の売買リスクや流動性リスクを低減させる役割を持つであろう。

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